行政書士sukekiyo-kunと考えよう! 犬神家の一族と親族・相続法。

このブログ神ってる? いえ、犬神ってます。親族・相続法マニアになりたい風変わりな行政書士の日々を・・・

相続?なにそれ、おいしいの? ⑨犬神佐兵衛の驚愕遺言・・・その弐(犬神家の負担付遺贈)

 さて、前回の続きです。佐兵衛の呪いのような遺言はまだまだ続きます。

             前回はこちら

相続?なにそれ、おいしいの? ⑧犬神佐兵衛の驚愕遺言・・・その壱 - 行政書士sukekiyo-kunと考えよう! 犬神家の一族と親族・相続法。 (hatenablog.com)

 では、参りましょう。なるべく小説『犬神家の一族』原文を尊重しながら。

                 原文

・・・よくとおる声が、呪文のようにつづくのである。まるで地獄の底から、復讐の悪鬼でも呼び出すように。・・・・・・

「ひとつ。・・・・・・もし野々宮珠世にして、斧(よき)、琴、菊の相続権(厳密に言うと受贈権です)を失うか、あるいはまたこの遺言状が公表されてより、三か月以内に死亡せる場合には、犬神家の全事業は佐清によって相続され佐武、佐智のふたりは、現在かれらの父(それぞれ犬神製糸の支店長の職についています)があるポストによって、佐清の事業経営を補佐するものとす。しかして、犬神家の全財産は犬神奉公会によって、公平に五等分され、その五分の一ずつを、佐清、佐武、佐智にあたえ、残りの五分の二を青沼菊乃の一子青沼静馬にあたえるものとす。ただし、その際分与をうけたるものは、各自の分与額の二十パーセントずつを、犬神奉公会に寄付せざるべからず

 

 さて、ここで佐兵衛は条件付きで事業を佐清に任せます。また、財産については関係者で分与という感じに区別を付けてきました。その条件とは・・・

1 遺言公開後の三か月以内に珠世が死亡、または珠世が佐兵衛の三人の孫との結婚を拒んだ場合です。

 珠世が(広義の)相続から脱落してしまった場面が想定されると同時に、ここでいきなり青沼静馬の名が浮上してきました。しかも「青沼菊乃の一子静馬」という、なんとも微妙な言い回しです。婚外子として認知済みであれば「我が子、青沼静馬」という言い回しにしてもいいはずです。やはり、認知はされていないような気がします・・・。

 ちなみに、このように遺言で事業と財産を分けて相続させるというのは、現代の企業経営者もよく使うやり方です。事業を継がない者には、最低保障分(遺留分と言います。詳しい解説は後日にしたいと思います)相当の金銭だけを与えておいて、「あとは文句言うなよ!」という手法です。

 そして、「分与額の二十パーセントずつを、犬神奉公会に寄付せざるべからず」このような遺言も可能です。これを負担付遺贈(民法1002条)と呼びます。

 身近な例で言いますと、遺産を与える見返りに「飼い主に先立たれた不幸なワンちゃんを終生世話してあげてね」という条件を付けるのも有りということです。託された方は、譲り受けた財産の枠内で、ワンちゃんの面倒をみてあげる義務を負います。この義務の履行を怠った場合、他の相続人は義務を履行するよう催促(法律用語で催告といいます)することができますし、それでもなお履行されない場合は、家庭裁判所に対して、遺言の負担付遺贈の部分について、取り消すように請求ができます。(民法1027条)今夜の解説はここまで。

 それにしても、すっかり脇役扱いになってしまった佐武君と佐智君。お気の毒です。さらに、静馬ひとりに対して財産の取り分を40%もシェアさせるあたり、やはり並々ならぬこだわりを静馬に持っているようです。さて、佐兵衛の遺言はなおも続きます・・・

                  原文

「ひとつ。・・・・・・犬神奉公会は、この遺言状が公表されてより、三か月以内に全力をあげて、青沼静馬の行方の捜索発見せざるべからず。しかして、その期間内にその消息がつかみえざる場合か、あるいはかれの死亡が確認された場合には、かれの受くべき全額を犬神奉公会に寄付するものとす。ただし、青沼静馬が、内地(国内)において発見されざる場合においても、かれが外地(外国)のいずれかにおいて、生存せる可能性ある場合には、この遺言状の公表されたる日より数えて向こう三か年は、その額を犬神奉公会において保管し、その期間内に静馬が帰還せる際は、かれの受くべき分をかれに与え、帰還せざる場合においては、それを犬神奉公会におさむることとす」

 

 ここでまた条件です。今度は静馬について・・・

1 犬神奉公会に三か月間の捜索を命ずる。これでダメなら没収(奉公会に寄付)

2 ただし、三か月が過ぎても、国外で生存の可能性があれば、帰るまで三年待つ。

3 静馬が国外で生存の可能性が有ったとしても、三年経っても帰ってこなければ遺贈を受けられず、犬神奉公会に没収。という感じです。

 

 ここまで見たところ、優先順位第一位は野々宮珠世、二位は佐清(会社の経営を託せるほどの信頼感はある)、三位は青沼静馬。こんな感じでしょうか? 静馬に会社を任せるという、そんな選択肢もなかったわけではないけれど、佐清の生存は一応確認できています。さらに佐清は、幼少の頃から、経営について佐兵衛から薫陶を受けていたのでしょう。

 それに比べると、静馬はかなりの期間行方不明であったし、従って佐兵衛の経営手腕を見て覚えるチャンスもなかった訳ですから、「さすがに経営までは無理かな・・・」との佐兵衛の判断だったのでしょう。

 本日はこの辺で・・・次回は佐兵衛の遺言最後の第三弾です。佐兵衛の遺言はさらにヒートアップ。ますます不吉の度合いを強めていきます。なんという複雑怪奇! 無慈悲なることここに極まれり! それではまた。 

 

兵庫県行政書士会所属(加古川支部

行政書士      池上  徹

 

御礼! 御礼!

 皆様こんばんわ、あるいはこんにちは。サッカー日本代表やってくれました。ミリ単位の勝負を見事に制しました。素人でも興奮できる瞬間をありがとう!御礼!です。あちらこちらで「ブラボー」の嵐。W杯がもう数か月早ければ、ことしの流行語大賞を獲得したかも知れません。

 さて、sukekiyo-kunのブログですが、開設から半月が経過。『犬神家の一族』を親族・相続法に引っ掛けて読み解こうという試み。既に先人の手垢つきまくりで、決して新しい試みではありません。しかし・・・。

 地味ながらも、着々とコアなファン層を獲得しつつあります。御礼!です。何よりの励みになります。というわけで、今夜・・・そうですね。日付が変わる頃には「佐兵衛の遺言その弐」をアップしたいと思います。しばしお待ちを。

 

 

閑話・・・封印してきた中国ネタですが。

なぜか木曜日になると、アクセス数が凄いことになる。普段の曜日の倍くらいに増えます。不思議な傾向ですが、他の方のブログも同じ傾向があるのでしょうか・・・謎だわ。

 

 皆様こんばんわ、あるいはこんにちは。歴史は繰り返すということでしょうか? かつての天安門事件を思わせるような、ここ最近の状況。職業上、政治に関する話題は自重していましたが、中国に関してはもう我慢できません。

 さて、習近平という男、彼の望みは何なのでしょうか? sukekiyo-kunが思うに、習近平の野望は、毛沢東もなしえなかった「皇帝」になることなのかもしれません。はっきり言えば、習近平が天寿を全うするには、現役の国家主席のまま逝ってしまうしかない。つまり、中途半端なタイミングで退けば、アンチ習の勢力によって”誅殺”される危険があります。だから異例の3期目突入にあたって、周囲をイエスマンで固める必要があったというわけですね。

 これは、ロシアのプーチン、北の金正恩にも共通して言えることです。国際社会の世論をもってしても、現状ではいかんともしがたい。ならば、彼らにはさっさと天寿を全うさせて、ラストエンペラー」になって貰う。これしかないのかな? 多少の閉塞感と希望的観測も込めて・・・。

相続?なにそれ、おいしいの? ⑧犬神佐兵衛の驚愕遺言・・・その壱

 皆様こんばんわ、あるいはこんにちは。いよいよ佐兵衛の遺言が公開されます。小説・映画と同じように、緊迫感を演出するため、なるべく原文の形を保つ方向でやっていきましょう。

 

 古舘弁護士は震える指で、あの貴重な封筒を切った。それから、低いながらもよくとおる声で、遺言状を読みはじめた。

「ひとつ・・・犬神家の全財産、ならびに全事業の相続権を意味する、犬神家の三種の家宝、斧(よき)、琴、菊はつぎの条件のもとに野々宮珠世に譲られるものとす(譲られるものとす・・・いい表現です。厳密に言うと遺贈であって、相続ではありませんので、さすが)

・・・憎しみにみちた彼らの視線が、火箭のように烈々と珠世のうえに注がれる。

「ひとつ・・・ただし野々宮珠世はその配偶者を、犬神佐兵衛の三人の孫、左清、左武、左智の中より選ばざるべからず。その選択は野々宮珠世の自由なるも、もし、珠世にして、三人のうちの何人とも結婚することを肯(がえん)ぜず、他に配偶者を選ぶ場合は、珠世は斧、琴、菊の相続権を喪失するものとす。(ありゃりゃ? ここで相続という言葉が出てしまいましたか・・・)

「ひとつ。野々宮珠世はこの遺言状が公表されたる日より数えて、三か月以内に、左清、左武、左智の三人のうちより、配偶者を選ばざるべからず。もし、その際、珠世の選びし相手にして、その結婚を拒否する場合には、そのものは犬神家の相続に関する、あらゆる権利を放棄せしものと認む。したがって、三人が三人とも、珠世との結婚を希望せざる場合、あるいは三人が三人とも、死亡せる場合においては、珠世は第二項の義務より解放され、何人と結婚するも自由とす」

・・・一座の空気はいよいよきびしく緊迫してくる。



  ・・・さて、「肯ぜず」とか、いささか漢文調で、読みにくいと思われる方もいらっしゃるでしょう。sukekiyo-kunはもともと中国文学科出身なので、それほど読むのに苦労はしませんでしたが、簡単にまとめると、

1 全財産を条件付きで珠世に遺贈する。

2 その条件は、遺言公開三か月以内に左清・左武・左智のいずれか一人を配偶者にする旨意思表示をすること。さもなくば、珠世に与えられた遺贈の受遺権は消滅すること。

3 三人の孫のうち、珠世との結婚を拒んだものは、財産承継から排除される。珠世を女王様と見立てて、三人の孫を逆タマ狙いの状況に追い込む。なかなかイキな計らいですね。

4 珠世が、左清・左武・左智全員からフラれた場合または、左清・左武・左智がみんな死亡すれば、他の誰と結婚しても良く、遺贈の受贈も出来る。

 こんな感じでしょうか? 佐兵衛は珠世にとって極めて有利な条件を提示しています。なぜこんなに珠世にこだわるのか? 実は珠世の祖父である、野々宮大弐が佐兵衛にとっての大恩人だったのです。親のいない浮浪児だった佐兵衛は、野垂れ死に寸前のところで那須神社の神職・大弐に助けられ、養育されました。成長し、製糸工場で修行を積んで、自ら犬神製糸という会社を設立する際に出資してくれたのも大弐でした。

 おまけに、若き日の佐兵衛はかなりの美少年だったらしく、大弐の男色(巷で言うBLですか。まさにパタリロの世界・・・歳がバレるわw)の相手にもなったようです。おかげで大弐の妻・晴世がヘソをまげて、一時家出することもあったそうです。晴世も佐兵衛をかなり可愛がっていたようですから、嫉妬したのでしょう。

 それにしても4です。かなり不吉な条件を付けています。三人の孫を全員殺してしまえば、すべてが珠世の思惑どおりとなります。このことが、先の「ボート事件」

                  ↓

相続?なにそれ、おいしいの? ⑤犬神佐兵衛の遺言はいつ書かれたのか? - 行政書士sukekiyo-kunと考えよう! 犬神家の一族と親族・相続法。 (hatenablog.com)

と関連するのか? まだまだ、佐兵衛の驚愕遺言は

続きますが、本日はこのへんでw

相続?なにそれ、おいしいの? ⑦もしも静馬が犬神家の養子になれば・・・。

犬神家のネタをやらない日はアクセスが伸びないという法則・・・w

 皆様こんばんわ、あるいはこんにちは。すっかりお馴染みになりました。犬神家の関係図です。驚愕の遺言書、これはかなり長いです。ほぼ原文のままで行くか、要点だけまとめるか思案中です。小説の緊迫感を演出するためには、なるべく交える原文は多い方が面白いかな?

 というわけで、今回はすみません。佐兵衛の驚愕遺言の公開前に、もうワンクッション置かせてください。前回の記事を前提にして、松竹梅三姉妹は婚外子(非嫡出子)の状態、プラス、佐兵衛が静馬と養子縁組した場合、どのようになるのか、時系列的に三つのパターンにわけて検討したいと思います。↓

相続?なにそれ、おいしいの? ⑥驚愕遺言の前に・・・犬神家の婚外子と遺言書開封と失踪宣告 - 行政書士sukekiyo-kunと考えよう! 犬神家の一族と親族・相続法。 (hatenablog.com)

条件:遺産が1000億円だったと仮定。(旧民法下だと、犬神家の「家」の財産と、佐兵衛名義の個人財産を別にして考えないといけませんが、ややこしくなるので個人財産はゼロとみなします)

 

⑴遺言書が昭和22年5月3日より前に作成された場合。(旧民法適用となります)

 家督相続ということになりますが、静馬が養子となれば、合わせて4人の子が存在することになります。

養子(嫡出子同様の地位):静馬

婚外子(非嫡出子):松子・竹子・梅子

 この状態では、静馬の立場が一番強くなります。犬神家の事業を含む家の財産は、戸主(家督相続人)となる静馬の総取りになります従って松竹梅三姉妹の相続分はありません。仮に静馬も婚外子扱いだったとしても婚外子の状態で4人が横並びという状況家督相続法の価値観から言うと、男子優先となりますので、おそらく同じ結果になると思われます。三姉妹から見れば、1000億全部かっさらっていかれる事になりますから、最悪のシナリオということになります。

⑵遺言書が昭和22年5月3日以降~平成25(2013)年に作成された場合。(新民法適用となります)

養子(嫡出子同様の地位):静馬

婚外子(非嫡出子):松子・竹子・梅子

 このケースが実は一番ややこしいのです。平成25(2013)年までは、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の半分という差別的条項がありました。詳しい資料が入手できないためsukekiyo-kun流の解釈になりますが、静馬については一人前。松竹梅はそれぞれ半人前(つまり0.5人)という風に考えると・・・

 理論的には、1(静馬)+松竹梅(0.5×3)=2.5人の相続人が存在することになります。1000億÷2.5=400億。400億が一人あたりの相続分ということになって・・・

静馬:そのまま一人前の400億

松竹梅:残余の600億÷3=200億(松子・竹子・梅子それぞれ200億ずつ)

(理論的にこれで合ってますか・・・? どなたか平成25年以前の知識をお持ちの先生がいらっしゃれば教えて頂きたいです)

⑶現行制度(平成25年以降)

 これはシンプルです。嫡出・非嫡出を問わず、単純に子4人で割ればいいだけですから、1000億÷4=250億ずつという事になります。

 

 それでは本日のところはこれで・・・。次回はいよいよ驚愕遺言の内容が明らかになります。

閑話・・・たまにはお題とやらに答えてみましょう。

お題「これまで生きてきて「死ぬかと思った」瞬間はありますか?身体的なものでも精神的なものでも」

 

 つい最近のことです。もっとも3月下旬を控えた時期なので、少し時間は経ってますが。スキー好きで、行きつけのゲレンデは岐阜県のダイナランドです。毎度毎度、新大阪23:45発のツアーバスに乗って、朝方に到着。ほぼ一日滑って17:00ダイナランド発のバスに乗って、22:00ごろに大阪駅周辺で解散。そこから電車で帰るという。車中1泊2日の強行軍です。

 多少小ぢんまりとしたコース構成のダイナランドですが、裏側にある結構規模の大きな高鷲スノーパークとは山頂のところで接続しており、リフト券購入時に500円追加すれば、両方のゲレンデを行き来できます。事件は高鷲スノーパークの最凶コース(最大斜度40°)で起こりました。2月に行ったときは新雪たっぷりで、斜度がきついだけでスイスイ降りて来れましたが。この時は斜度はまあ良いとして、一面コブだらけ。

 入ってしまった以上後には戻れませんので、とにかく慎重に降りるだけ・・・。ところが、半分ほど降りたところで、コブに板を取られて転倒。頭から仰向けになった格好でズルズルと下に引きずられます。勢いは衰えることもなく。何とか体勢を変えるよう試みましたが、仰向けから腹ばいに変わっただけで、なおも引力によって下へと体が流されていきます。おまけにそのコース滑ってた人は誰も居ないんです。こういう時に限って・・・。

 このままではまずい。これ、「マジで死ぬる」と思ったところでようやく止まりました。かれこれ30m近く流されたようで、それも微妙に右斜め下方向へと流されていたようでした。あと3mほど流されていたらコースアウト。コース外の森林に滑落しているところでした。行政書士試験の合格通知を受け取ってしまっただけに、もはや今年の運は使い果たした。と思いきや、まだ少し運は残っていたようです。

 2月とは違って3月中旬にもなれば雪は緩んで、シャーベット状の重い雪になりがちです。どうしても板を取られやすくなります。その辺を忘れていましたね。完全に。

 途中で無理だと思ったら、板を外して担いででも歩いて戻るほうがいいです。さもなくば斜滑降で横滑りして少しづつ降りるか。無理は禁物。しかし「昨シーズンは1勝1敗。今度は勝つ」とか思ってる自分がいます。懲りない人ですね。

 

 

 

 

相続?なにそれ、おいしいの? ⑥驚愕遺言の前に・・・犬神家の婚外子と遺言書開封と失踪宣告

 

   さて・・・いよいよ例の遺言状が犬神家の屋敷で公開されることになります。顧問弁護士・古舘の依頼人という立場で、遺言の公開に同席を許された金田一でしたが・・・・・・。前回の続きです。一気に行きましょう。小説『犬神家の一族』より、原文を交えながらのダイジェストです。

 

 十二畳二間をぶち抜いた大広間に、犬神佐兵衛の長女である松子とその子の佐清、次女・竹子とその夫の寅之助、子の佐武小夜子の兄妹、三女・梅子とその夫の幸吉とその子の佐智。そして犬神家に引き取られた野々宮珠世。

 総勢10名の犬神家関係者に、古舘弁護士と金田一。合計12名、役者は揃いました。佐清は使用人の証言通り、黒頭巾をかぶったままです、古舘弁護士はさすがにまずいと思ったのか、松子の承諾を得て、佐清の頭巾を取って貰おうと進言します。古舘弁護士の言葉に勢いづけられたのか、竹子・梅子も同調。「どうせ偽物でしょう」といわんばかりの発言も飛び出す始末です。これにブチ切れた松子は、

 「佐清、頭巾をとっておやり!」と命じます。すると、頭巾の下は確かに佐清を思わせる目鼻立ち、しかし、その顔は真っ白なゴムマスクでした。松子が言います、

 「(ビルマでこの怪我、さてはインパール作戦か?)佐清は顔にひどいけがをしたのです。それでああいう仮面をつくってかぶらせてあるのです。わたしたちの東京滞在が長びいたのはそのためです。・・・佐清! その仮面を半分めくってみせておやり!」

 佐清の仮面が少しずつめくり上がって行きます。仮面の下から現れたのは・・・「きゃっ!」小夜子が悲鳴を上げるほど、醜く焼けただれた肉の塊でした。さすがに一同は、度肝をぬかれてしまい、もはや本物・偽物の話どころではありません。

佐清! もうよい! 仮面をおおろし」 力技で偽物疑惑を一蹴した松子にうながされ、古舘は低いながらも良く通る声で遺言状を読み上げ始めます。

sukekiyo-kun「ちょっと待ったぁ!!」

 ここで待った!です。序盤最大の見せ場です。画像とってきて貼りたいぐらいです。(著作権の問題でやりませんが・・・) でも、「待った!」です。古舘さん、その遺言書、ちゃんと家庭裁判所に持って行って検認受けましたか? 公正証書遺言以外は発見され次第、それから、遺言書を預かっていた人は、相続開始を知った時から遅滞なく、家庭裁判所に提出して検認の請求をしないといけません(法務局に保管されたものを除く。民法1004条1項)

 例えばお葬式が済んでから「あ。遺言書みーっけ! どれどれ?」ベリッ! はダメです。遺言書が無効になったり相続権を失ったりと、ことさらに脅すような情報をどこかで見かけた記憶があります。でもこれは脅しすぎ。ただし、そこまでひどいわけではないけれど、5万円以下の「過料」(民法1005条)くらいは課せられる可能性があります。ダメな行為とされていますから注意しましょう。

 万が一やってしまった場合は「すみませーん。法律知らずに開封しちゃったんですけど・・・」と頭を下げて家庭裁判所に持っていけば、そんなに目くじら立てて怒られるということはないんじゃないかな・・・? なんといっても弁護士ですから、その辺の手続きに抜かりはないでしょう。そう思いましょう。

 

 とりあえず続きは次回ということにして、お題の方に入りましょう。犬神家の松竹梅三姉妹ですが、みんな母親がばらばらです。佐兵衛は一生涯正妻(法律上の妻)を持ちませんでした。三姉妹の母三人は、昔風に言うと妾、今なら愛人、よくても内縁の配偶者止まりです。まず、内縁の配偶者の場合は相続権がありませんので、法定相続で行きますと、その子である三姉妹もそのままでは相続権が発生しないことになります。

 すみません。以前の記事で、三姉妹を養子と表現しましたが、厳密に言うとそうではない可能性があります。佐兵衛が三姉妹とちゃんと養子縁組していれば、なんの問題もありません。養子縁組によって実子(嫡出子)と同様の地位を手に入れられるからです。ちなみに養子には普通養子と特別養子の二通りがあるのですが、それについては、また後日触れることにしましょう。

 仮に養子縁組しないのなら、別の手もあります。認知(民法779条)という方法です。佐兵衛が自分の子と認めればいいのです。ただし、養子縁組と違って嫡出子の地位は三姉妹の手には入りません。婚外子(非嫡出子)として扱われます。ただし、認知された時点で、直系卑属(卑属とは佐兵衛からみた後の世代を指します)に含まれることになりますので、養子同様に相続権を獲得することになります。犬神家の諸般の事情を考えると、認知された婚外子と見た方がいいかも知れません。つい最近の平成25(2013)年までは、法定相続における非嫡出子の取り分は、嫡出子の1/2しかないと言う差別的条項がありましたが、今は大丈夫。対等です。

 そして、この後出てくる、青沼菊乃なる人物。これも佐兵衛の愛人4人目です。物語の流れから見ると、佐兵衛は菊乃を深く愛し、正妻に迎えようと思っていたフシがあります。それがダメなら菊乃の子・静馬と養子縁組。それすら無理なら認知。こんな感じの優先順位かと思います。で、実際の所どうなのか。認知ぐらいはしたのか。遺言書が読み上げられた直後まで小説を読み進めましたが、これまでのところ詳細は明らかにされていません。ただ、遺言状の文脈を見る限り、どうやら認知すらされていないのかな? そんな気はします。遺言で認知(民法781条2項)することも可能ですが、それらしい文言も見当たりません。

(認知が済んでいないのなら「遺言でも可能ですよ」って古舘さん、それくらいはアドバイスしてあげても良かったのでは・・・)

 静馬の横に「ビルマに出征」と書いてますが、これは今のところは忘れてくださいw タネ明かしはかなり後の方になります。あくまでも今のところは、菊乃とともに消息不明・生死不明です。それも、かなり長い期間にわたって不明のようですね。静馬が戦争に出てビルマにいたことすら不明です。

 最後の音信から7年間の期間を満了した場合、申し立てによって家庭裁判所から失踪宣告が出され、7年間の期間満了の時点で死亡したとものと扱われる可能性があります。しかし・・・

 次回あたりで触れますが、佐兵衛は遺言で、犬神奉公会に静馬の捜索を命じています。静馬を諦めたくないという心情がうかがえます。なので、おそらく家庭裁判所への失踪申し立てはしていないと思われます。

 ちなみに、失踪申し立ての資格を持つ者についてですが、親族に限らず、利害関係を有する者で良いとされています。(民法30条) 松子たち三姉妹も、もしも静馬が生きていて、養子縁組でもされた日には、相続分が大きく変動するため利害関係を有することになります。よって失踪の申し立てをすることが可能です。もっとも、佐兵衛がそんなことを許すわけありませんが・・・。

 

いやはや、本日も2800字を超える記事となりました。もう少しコマ切れにしてやっていけば、読み方も楽かもしれませんね。そういう風にやって行けば、この連載企画も長く続けられそうですし(爆w)

 

兵庫県行政書士会所属(加古川支部

行政書士       池上  徹